この事例の依頼主
60代 女性
相談前の状況
母が先日亡くなりました。相続人は私と兄の2人ですが、母は私にすべての財産を残すという自筆証書遺言を残してくれました。また、生前、私が母の看病をしていたため、お礼にということで、1000万円ほど贈与をしてくれていました。そうしたところ、兄が、遺言書の作成当時や生前贈与をした時点で、認知症で判断能力がなくなっていたとして、贈与契約と遺言書の無効を主張して、その無効の確認と不当利得返還請求の裁判を起こしました。
解決への流れ
既に、裁判を起こされているということで、原告(兄)の提出した書証を見たところ、被相続人(母)の入所していた施設の看護記録が提出されていましたが、一部だったため、まずは、要介護認定の決定通知書、主治医意見書を入手すると共に、被相続人のお母様が入所されていた施設の看護記録を取り寄せました。そうしたところ、被相続人が要介護1だったということに併せて、依頼者が、足繁く施設に通っていたこと、遺言書の作成後にしたためられた被相続人から子ども達に宛てた手紙が出てきたため、これらを証拠として提出し、丁寧に原告の主張に対して、対応し、最終的には、相手方に対して、概ね遺留分相当額を支払うという実質的勝訴の和解で終わりました。
このケースは、看護記録で、物忘れや被害妄想等を想起させるような記録がありましたが、認知症の中核症状が認めらず、要介護1であったことや被相続人本人の自筆の手紙が出てきて、それが遺言書作成の動機や依頼者に対する感謝のないようであったことから、遺言書や生前贈与が有効であると認められました。今回、遺言書の有効性が争われましたが、そもそも遺言書が無ければ、施設入所中の被相続人に対する依頼者のケアを遺産分割の中で反映させることは難しく、改め、遺言書の大事さを痛感した事例でした。